小笠原惣領家流礼法

小笠原惣領家について

小笠原惣領家第三十二世主正五位 元伯爵小笠原忠統宗家の思い

ここに忠統宗家が永眠なさる三年前、朝日新聞社「有楽」の取材で熱く語られていらっしゃる内容をご紹介いたします。

日本古来の礼法を守り続ける三十二代宗家・忠統(73歳)は古武士の風格を漂わせながら執務室に鎮座していた。まず「現代に生きる礼法とは何ぞや」を問うと「お見せしましょう。ボールペンを貸してください」ときた。ノック式ボールペンをポケットから取り出して、軸の中間を握ったまま渡そうとすると「それじゃ相手は握れないでしょ。すぐ書けるように渡すんです」と喝波して、自らノックして出したペン先をつまんで差し出しながら、厳かに言った。「これが神髄です。相手を快適にするもてなしですよ。気配りという表現(中略)」意外にも気さくな宗家なのである。冗談を交えた話しぶりに、こちらの緊張もすぐにほぐれた。

「礼法は八百年前、足利尊氏が政権を掌握したあと戦の服装から公家との交際法までを定めたものです。酒宴作法、蹴鞠の仕方や(中略)つまり武士としての作法全部です。小笠原流というと畳のヘリを踏むなが有名ですが、あれは膳に息がかからないように捧げて運ぶ時、目の前が見えずにつまずくことがあるからです。無駄に見えても本当に必要なことが書かれています。(中略)」

「(中略)私の代までは門外不出でした。当家は江戸時代は大名、明治以後は伯爵でしたから、一般の人に簡単に教えるわけにはいかなかったのです。私もその教え通り、最近まで弟子を取らず一人で守ってきたんですが、我慢できなくなった。なぜかというと、小笠原流があまりにも誤解されて伝えられているからです。遅ればせながら、小笠原流の真の心を世に問うつもりです。(中略)小笠原流がいろいろあるために惣領家を名乗り、弟子を集めた。面接し、人物鑑定をしてから教え始めた。弟子には(中略)入門時から立ち居振る舞いだけでなく古文書を読み取る能力も要求しているため(中略)「これからが本格活動です。私の跡は甥が継ぐのですが、その前に門外不出だった古文書を公表するなど、できることはやりますよ」
小笠原宗家の攻勢宣言である。

引用文献

小笠原忠統氏の剛直なる典雅143〜147
文:堀田希一 「有楽」朝日新聞社 1993 3月